2025/08/08 15:00

クリスチャン・ディオールの『ニュールック』が登場した1950年代は、オートクチュールの黄金期として輝いた時代。
しかし、その華やかさの中から、新たな時代の波が訪れる。
やがて1960年代、プレタポルテが台頭するなか、特に若者文化が大きなムーブメントを巻き起こした。
フランスでは『yéyéイエイエ』現象が新しい音楽とスタイルを生み出し、アメリカではヒッピーが既成概念を揺さぶり、イギリスではスウィンギング・ロンドンが創造力と自由の象徴となった。
【フランス】
『成熟したカルチャー&モダンファッション』
<音楽>
フレンチポップスが輝きを放った時代、日本でも馴染みのあるメロディがドラマや広告の挿入歌として今でも使用されています。
またセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンが歌った曲は、センセーショナルでありながらも物議を醸し、フランスの音楽界に革命をもたらしました。
そんな中、新しいフレンチポップスは「イエイエ(yéyé)」と名付けられ、それまでのシャンソンとは一線を画すポップなリズムとスタイルを特徴としました。
特に1960年代初期から中期にかけて、パリのサンジェルマン広場を中心に登場した「イエイエ族」と呼ばれる
お洒落なティーンエイジャーたちは、身体にフィットしたセーター、短いスカート、そしてハイウエストのベルト付きコートといったファッションで注目を集めました。
このスタイルは1990年代に再び脚光を浴び、パリ風の60'sルックとして蘇りました。
さらに、“イエイエ”という言葉はロックンロールの影響を受けたシャンソンから派生したものとされます。
当時のアイドル歌手シルヴィ・バルタンは、若者たちのファッションリーダーとしてその地位を確立しました。
ちなみに、日本で「イエイエ」といえば1967年にレナウン株式会社がニット・コーディネートのCMで使用したことでよく知られています。この際のキャンペーンガールはシルヴィ・バルタンです。

<ファッション>
クレージュやピエール・カルダン、パコ・ラバンヌが提案した未来的なコスモス・ルックは、ビニール素材や宇宙の要素を取り入れた大胆なデザインで、モダンな美しさを具現化しました。
一方、イヴ・サンローランはディオールでの経験を活かし、1962年に自身のブランドを設立。
モンドリアンルックやサファリルックなど、アートとファッションを融合させたスタイルを数々生み出しました。
彼の革命的なアプローチは、1966年の女性用タキシード「スモーキングルック」に象徴されています。翌年にはパンツスーツも発表し、マスキュリンなエレガンスという新たな境地を開拓。
これらのデザインは女性の独立性を讃えると同時に、時代を超えた永遠の魅力として受け継がれています。
<映画>
1950年代後半から1960年代にかけて、フランス映画界は「ヌーヴェルヴァーグ」という新しい波のごとく斬新な映画運動を巻き起こしました。
ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメールといった若き才能あふれる監督たちは、従来の映画制作のルールを果敢に打ち破り、個性が輝く実験的な作品を次々と生み出しました。
彼らの革新の象徴は、スタジオを離れ、自然光を巧みに活用し、リアリティあふれる日常をスクリーンに描き出したことにあります。それは従来の形式的な映画に対する大胆な反抗でした。
そして、彼らの作品はファッションの世界にも大きな影響を与えました。
ブリジッド・バルドーやカトリーヌ・ドヌーブといった伝説的な女優たちは、時代のファッションミューズとなり、今なおそのスタイルが息づいています。
ブリジッド・バルドーは、小悪魔的なセクシーさとナチュラルなフレンチカジュアルとの対照的な魅力で注目を集めました。
一方、カトリーヌ・ドヌーブは、洗練されたブルジョワフレンチ・モードを完璧に体現し、その成熟したエレガンスは、イヴ・サンローランのミューズとしても輝きを放ちました。
【イギリス】
『スウィンギング・ロンドン 流行の発信地』
<音楽>
1960年代、イギリスは反逆のミュージシャンたちによって新しい風を巻き起こしました。
ビートルズやローリング・ストーンズといった伝説的なバンドが、音楽のみならず社会や文化全体にも革命をもたらし、その影響は世界中へと広がりました。
その中心にあったのが「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれる現象です。
これは、若者文化が開花し、ロンドン全体が活力に溢れた黄金時代を指します。
音楽、映画、インテリア、そしてもちろんファッションが一体となって街を彩り、その勢いはロンドンだけにとどまらず、世界的な注目を集めました。
特権階級への反発と反体制意識に満ちた若者たちは、型破りで革新的なファッションを生み出しました。庶民のスタイルが新しい美意識として進化し、ハイファッションに挑む力強いメッセージを発信しました。
その背景にはビートルズによる音楽文化の旋風があり、若者たちを夢中にさせる旋律は、ファッションにも新しい躍動感を与えました。
スウィンギング・ロンドンは、若者文化が時代のエネルギーとなり、イギリスに新たな活力をもたらした象徴とも言えるのです。

<ファッション>
“スウィンギング・ロンドン”が生んだ象徴的な存在、それがツィギー。
「ツィギー(小枝)」のように華奢な手足と愛らしいファニーフェイスを持つ彼女は、従来の美の基準を大胆に塗り替え、新しい女性像を生み出しました。
それまで「グラマラスな女性こそ美しい」という固定観念が支配的だった時代。
そんな価値観を無名のモデルだったツィギーが一変させたのです。
ただし彼女が元祖スーパー・モデルとして躍り出たのは、単にそのユニークなルックスだけではありません。
抜群にミニスカートを着こなす彼女の細い脚が、鮮烈な印象を与えたのです。
この流行の波を支えたのが、デザイナーのマリー・クワント。
彼女はミニスカートの流行を考えていましたが、ツィギーとの出会いによってそれが世界的なブームとなりました。
当時、オートクチュール的な保守的ファッションに飽き飽きしていた若者がこぞってミニスカートを取り入れ、「ツィギー効果」による爆発的ブームを巻き起こしました。
そのブームの中心地となったのが、ロンドンのソーホー地区にあるショッピング街、カーナビー・ストリートです。ここは若者ファッションのメッカとなり、「カーナビー・ルック」と呼ばれる新しいスタイルを発信。その影響は日本にも波及しました。
当時、マリー・クワントはロンドン出身の美容師ヴィダル・サスーンとともにファッションショーを展開。
サスーンは女性のヘアスタイルに革命をもたらし、世界的に成功を収めました。特に彼の「ボブ」は、活動的で自立した女性を象徴する画期的なスタイルとして注目されました。
マリー・クワントは、ミニ丈ドレス、ブーツ、カラフルなメイクのツィギーを世界的なファッションアイコンへと導きました。
<映画>
1960年代のイギリス映画界では、「スウィンギング・ロンドン」の若者たちを描いた斬新な作品が次々と登場しました。この時代の映画は、タブーを破り、性描写や自由なテーマを大胆に取り入れることで、大きな変化を遂げたのです。
その代表的な作品のひとつが、リチャード・レスター監督の青春コメディ『ナック』です。
この映画は、流行しはじめた若者文化やカウンターカルチャーのエネルギーを鮮やかにすくい上げ、軽快で魅力的な物語を紡ぎました。
端役ではありますが、無名時代のジェーン・バーキンやシャーロット・ランプリングが出演している点も見逃せない魅力です。
【アメリカ】
『政治と文化が直結したポップカルチャー』
1960年代のアメリカは、公民権運動やキューバ危機、ベトナム戦争、そしてケネディ大統領の暗殺など、一連の出来事を通して、それまでの黄金時代から大きな変革を迎えた時代です。
これらの激動は、国全体に深い影響を及ぼし、同時にアメリカの「暗部」を浮き彫りにしました。
しかし、その反動として、若者たちの間に新たなポップカルチャーが芽吹くこととなりました。
音楽、ファッション、芸術の領域で、彼らの自由な精神や反抗的なエネルギーが花開き、既存の価値観に挑戦する斬新な表現が次々と誕生しました。
<音楽>
1960年代のアメリカ音楽シーンは、激動の社会状況と文化的変革によって劇的に形作られました。
この時代、音楽は反戦や平和、愛を訴える強力なメディアとして進化しました。
ベトナム戦争の影響が深まる中、フォークソングは「声なき声」を代弁する形で広がり、ボブ・ディランなどのアーティストがその先頭に立ちました。従来のフォーク音楽をさらに発展させ、フォーク・ロックという新たなジャンルを創り出しました。
そして、1962年に登場したイギリスの「ビートルズ」は、音楽の世界に革命をもたらし、ポピュラー音楽の概念を刷新しました。その軽快で創造性に富んだ楽曲は、アメリカを含む世界中の若者たちを魅了し、新たなムーブメントを巻き起こしました。
この時代の音楽は、ただの娯楽にとどまらず、時代の声を映し出し、社会を変える力を秘めた文化そのものだったのです。

<ファッション>
ジャクリーヌ・ケネディ、アメリカの象徴的存在であり、洗練されたファッションの代名詞。
彼女は1960年代を代表するファッションリーダーとして、多くの人々の憧れを集めました。フレンチモードに魅了されていた当時のアメリカ上流社会の潮流を巧みに取り入れ、彼女自身のスタイルを確立。
その結果、「ファーストレディー・ルック」と呼ばれる独自のエレガンスを打ち出しました。その影響は時代を超え、現在も「ジャッキー・スタイル」としてレディライクなファッションの象徴として息づいています。
一方、1960年代後半になると、ヒッピー文化やフラワーチルドレンのスタイルが登場。
自由と平和を象徴するこれらのスタイルは、フリンジ、ロングブーツ、ベルボトム、そしてカラフルなフラワー柄を特徴としています。これらのファッションは、個性と自己表現の重要性を示すカウンターカルチャーの一環として、時代の精神を映し出しました。
ジャッキー・ケネディの洗練されたエレガンスと、ヒッピースタイルの自由なエネルギー。
この二つの対照的な美学が同じ時代に共存していたことは、1960年代の豊かな文化的多様性を象徴しています。
どちらのスタイルにもその時代特有の魅力があり、いまなお私たちを魅了し続けています。
<映画>
1960年代、アメリカの映画界に現れたアメリカン・ニューシネマ。
その作品群は既存の価値観や体制への鋭い批判を含み、激動の社会状況や文化的潮流を鮮やかに反映しました。
特にアーサー・ペン監督の『俺たちに明日はない』は、ニューシネマの原点とも言われ、反体制的なメッセージと暴力的な美学が融合した革新的な映画でした。この映画は従来のハリウッド映画の枠を打ち破り、観客に強烈な衝撃を与えたのです。
また、スタンリー・キューブリック監督による『2001年宇宙の旅』は、哲学的かつ壮大なSF映画として1968年に公開されました。
この作品は、アポロ月面着陸を翌年に控えた時代の未来志向を象徴し、人類の進化や宇宙の謎を探る壮大なテーマを描き出しました。その革新的な映像表現と奥深い内容は、映画史において不朽の名作として評価されています。
これらの作品は、ただの娯楽作品にとどまらず、観る者に深い思索を促し、時代の精神を鋭く映し出す文化的アイコンとして、現在もなお語り継がれています。
1960年代、若者文化がもたらした革新はファッションの世界を揺るがしました。
その挑戦的な精神は、現代のファッションにも息づいています。
当時も今も、若い世代が大胆なアイデアを形にし、それが時代のトレンドや文化の一部となっていく。
進化を続けるファッションの流れを楽しみながら、自分らしいスタイルを追求し続けましょう。