2025/10/10 13:00

しなやかで芯のある美しさが、今季の主役。
この秋冬、ファッションは再び“レディライク”なムードへと回帰しています。 
レースやボウタイ、ツイードやベルベット…懐かしくも新しいアイテムたちが、現代の女性像に寄り添うようにアップデートされて登場。
 1950〜60年代のクラシカルなスタイルをベースに、ノスタルジーとモダンが溶け合う今のレディスタイル。
 その魅力を、今の空気感とともに紐解いていきましょう。

■1950年代のファッション

1950年代のパリは、まさにオートクチュールの黄金時代。 
バレンシアガ、シャネルといった歴史あるメゾンに加え、ディオール、ジヴァンシィ、ピエール・カルダン、ピエール・バルマンなど新世代の才能が台頭し、華やかで革新的なスタイルが次々と生み出されました。
この時代は、プレタポルテ(既製服)の登場によって、オートクチュールがその頂点を迎えたとも言われています。誰もがスタイリッシュな服を手に入れられるようになりつつある一方で、オートクチュールを愛する富裕層の女性たちのワードローブは、驚くほど細分化されていました。
彼女たちは、1日に3〜4回の着替えが当たり前。
普段着、旅行着、昼食用ドレス、フォーマルな昼用ドレス、夜会用ドレスなど用途に応じて緻密に分類された衣服を揃えていたのです。
特にイブニングドレスは、夕方用、外食用、晩餐会用、ダンス用など、時間帯やシーンごとに細かく分かれていました。
それは単なる贅沢ではなく、服を通してライフスタイルや美意識を表現する文化そのもの。 
1950年代のパリは、そんな“装いの哲学”が息づいていた時代だったのです。


■50年代の象徴、カクテルドレスという洗練 

1950年代のパリで生まれたカクテルドレスは、エレガンスと実用性を見事に融合させたスタイルとして、時代の象徴となりました。 
夜8時以降のレストランや劇場など、イブニングドレスほど格式ばらず、それでいて十分に華やかさを備えた装いとして、多くの女性に愛されたのです。
特徴は、イブニングドレスよりも短めの丈と、TPOに応じて肩を覆うボレロやショールを合わせるスタイル。
『Vogue』誌でも「午後8時から着られて、晩餐会や観劇にもぴったり」と紹介され、肩を露出する時間帯までは羽織りものを重ねるのがスマートとされていました。

1958年、スペイン出身のバレンシアガが発表した「ベビードール」は、カクテルドレスの概念を揺るがす革新的な一着。オーバーサイズのフォルムと豊かなプリーツは、1920年代の人形のドレスを思わせるノスタルジックな美しさを湛えながら、当時のモード界に新風を吹き込みました。 
このシンプルで大胆なデザインは、1960年代のミニマルなトレンドへとつながる重要な布石となったのです。
しかし、プレタポルテの台頭とともに、カクテルドレスは1960年代初頭には姿を消していきます。 
1946年に106軒あったオートクチュールのメゾンは、1958年にはわずか36軒にまで減少。カクテルドレスの消滅は、オートクチュールの衰退と軌を一にしていたのです。
カクテルドレスは、ただの洋服ではなく、 それは、戦後の女性たちが新しい自由と洗練を手に入れた証でもありました。


■1950年代、女性らしさが花開いた時代 

1947年、クリスチャン・ディオールが発表した「ニュールック」は、戦後のファッションに革命をもたらしました。
 丸みのある肩、絞られたウエスト、ふんわりと広がるスカート──そのシルエットは、抑圧された時代を経て、女性たちに自由と華やかさを取り戻す象徴となったのです。
上半身をぴったりと体に合わせ、ウェストは絞り、下半身は裾に向かって広がるボリュームのある形状のシルエットを指すフィットアンドフレアは1950年代の女性らしさと上品さを象徴するクラッシックスタイル。
このスタイルは、1950年代のレディースファッションの基盤となり、フレアスカートやペチコート、パニエを使ったボリューム感のある装いが主流に。 
グローブやパールのアクセサリー、レディライクなハンドバッグなど、細部にまで気品が宿るスタイルが好まれました。


■1950年代アメリカファッション

ハウスワイフスタイルは、家庭を守る女性たちの美しさと機能性を両立したファッションでした。 
カラフルなエプロンドレスや清潔感のあるギンガムチェックのワンピース、そしてキャットアイグラスなどの小物が、日常に華やぎを添えていました。

【映画が生んだ“ニュー・ルック”──銀幕のスターが導いた50年代ファッション】
この時代のファッションを語るうえで欠かせないのが、ハリウッド映画の影響です。
また、映画の影響も大きく、オードリー・ヘプバーンが着用したサブリナパンツやスカーフスタイルは、世界中の女性たちの憧れに。
ウエストを絞り、ふんわり広がるスカートのワンピースは、銀幕スターたちのスタイルとして広まり、今もなおレトロファッションの象徴として愛されています。
1950年代は、ただのファッションの時代ではありませんでした。 それは、女性たちが自分らしさを装いに託し、日常にエレガンスを取り戻した時代。



■1960年代ファッション

今秋冬に1960年代の“レディ”が、クラシカルなスーツ風セットアップや、ニットと合わせたペンシルスカートなどで再び脚光を浴びています。 そのフォーマルな佇まいには、かつてのファーストレディや銀幕のスターたちの気品が重なり、ノーブルで洗練された女性像が浮かび上がります。 
フェミニンなスタイルはこれまでも繰り返し登場してきましたが、今季はとりわけ“上流階級のレディ”を思わせるムード。 ただし、単なるレトロではなく、「抜け感や外し」を効かせることで、現代的なエレガンスが生まれます。

1960年代のレディライクなファッションは、フェミニンでありながらアクティブで大胆。
カルチャーの香りを纏いながら、型にはまらない意志を表現していました。 その魅力は、今の時代にも通じる“自由な美しさ”として再評価されています。
この時代、ファッションは自己表現の手段へと変化。 
オートクチュールからストリートへと舞台が移り、若者たちは形式にとらわれないリアルなエレガンスを求めました。 その象徴が、ミニスカートの登場です。
1959年にマリー・クヮントが考案し、1965年にはクレージュが膝上丈のミニドレスを発表。 モデルのツィッギーが登場すると、ミニスカートは世界的なトレンドとなり、日本でも“ミニの女王”として熱狂的に迎えられました。
肌を見せるという大胆な選択は、当時の社会に衝撃を与えながらも、女性たちの新しい自由と自己表現の象徴となったのです。 
1960年代のファッションは、エレガンスと挑戦が共存する時代。 そして今、私たちがそのスタイルに惹かれるのは、きっと“自分らしさ”を装いに託したいからなのかもしれません。

■1960年代、“レディライク”の進化

1960年代のファッションは、クラシカルな美しさにカルチャーの香りを添えた、自由で洗練されたスタイルの宝庫。 当時流行したリボンディテールやスカートスーツ、ロングブーツが、今秋冬で注目アイテムとして登場。

【リボン】 
リボンモチーフは、ブルジョア的な品格と女性らしさを象徴するディテール。 

【ミニスカート】 
“スウィンギング・ロンドン”の象徴、ツイッギー。 ボックス型のミニスカートからすらりと伸びる脚は、彼女の代名詞であり、若者文化とファッションの融合を象徴するスタイルでした。

【スカートスーツ】 
膝上丈スカートとジャケットで軽やかにアップデートされたセットアップは、当時ビジネスライクなきちんと感と女性らしさを両立させる新しい提案でした。

【キャットアイサングラス】 
オードリー・ヘプバーンのように、フォーマルな装いに大きめのキャットアイサングラスを合わせるスタイルは、気品と遊び心の絶妙なバランス。 ジョッキーハットやトーク帽など、帽子は装いを完成させるキーアイテムとして活躍しました。

【ロングブーツ】
ミニスカートの流行とともに登場したロングブーツ。ニーハイブーツも登場し、当時のモードに新しい質感とバランスをもたらしました。

1960年代のファッションは、ただのトレンドではなく、女性たちが自分らしさを装いに託した時代。 そのスタイルは今もなお、私たちの感性に語りかけてきます。


■レディライクを極める、秋冬アイテム 

この秋冬、クラシカルで上品なムードが再び注目を集める中、レディライクなスタイルを完成させるためのキーアイテムが浮かび上がってきました。 その筆頭が、セットアップとミディ丈スカート。
【セットアップ】 
スカート派が勢力を拡大中! かっちりとしたスーツ風のセットアップは、レディライクブームの中心的存在。 コンパクトなシルエットでまとめればレトロな雰囲気に、ロング&リーンなラインで仕上げればエレガントに。 今季は、ひざが隠れる丈感や仕立ての良さがポイント。知的で洗練されたスタイルが人気です。ツイードやベルベットなどの素材でリッチな雰囲気に。

【ミディ丈スカート】 
ウールやレザー、シルクといった上質な素材のミディ丈ボトムスが、この秋冬の主役に。Aラインからタイトシルエットまで登場。
クラシカルな佇まいに、ベロアやレザー調の質感で季節感を添えれば、大人の女性らしさを際立たせてくれる。
 品格と芯のある美しさを感じさせるオールドマネースタイルやシックで凛としたレディスタイルを演出。

トレンド要素のリボンディテールやボウタイ、ファーとも相性抜群です。

この2つのアイテムを軸に、今季らしい“芯のあるフェミニン”を楽しんでみて。 レディライクは甘さだけじゃない、 知性と自由を纏う、現代のエレガンスです。


デニム セットアップ